震災から7年・・・これからも末永く、多くの方につないでいきたい傑作『紙つなげ!』

2018年03月05日

こんにちは。スタッフ押川であります。

この本のことを、また多くの方に伝えたくなる時期がやってまいりました。ノンフィクション作家・佐々涼子さんの『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(早川書房)。
7年前の東日本大震災による大津波により壊滅的な被害を受けた、宮城県石巻市の日本製紙石巻工場が、震災から半年後に奇跡の復活を果たすまでを綴った傑作ノンフィクションです。

長きにわたり、日本の出版を紙の生産によって支えてきた石巻工場。しかし、あの日の巨大津波により甚大な被害を受け、工場は閉鎖されるのではないか、と思う従業員もいたほどの絶望的な状況でした。しかし当時の工場長は、震災からまだ半年も経っていない段階、それも電気や水道などのインフラの復旧もままならない中で、工場復旧の期限を「半年」に区切る、と宣言します。
当の工場長も含めた誰もが不可能だと感じるような、途方もない目標。しかし、現場の人びとは一丸となって工場の復旧に邁進していきます。地元石巻の復興への願いと、日本の出版を支え続ける出版用紙の生産という仕事へのこだわりと誇りを胸にしながら。
そして、震災から半年後の9月14日、最初に復旧されたマシンが稼動する時を迎えたのです・・・。

まさに奇跡的といえる、絶望からの見事な復興へのドラマに、読みながら幾度も、目頭が熱くなるのを抑えられませんでした。工場の人びとの仕事へのこだわりと誇りが滲み出るエピソードやことばのひとつひとつも、胸を打つものがありました。
とはいえ、著者の佐々さんの筆致は、ことさら煽り立てるようなことをしません。工場の人びとや石巻の人びとが語った当時の記憶を、あくまでも淡々とした記述で記録することに徹する姿勢には、大いに信頼と好感を持ちました。

本書の終盤に綴られた感銘深い一節を、ちょっと長いのですが引用させていただきます。

「本が手元にあるということはオーストラリアや南米、東北の森林から始まる長いリレーによって運ばれたからだ。製紙会社の職人が丹精をこめて紙を抄き、編集者が磨いた作品は、紙を知り尽くした印刷会社によって印刷される。そして、装幀家が意匠をほどこし、書店に並ぶのだ。手の中にある本は、顔も知らぬ誰かの意地の結晶である。
読者もまたそのたすきをつないで、それぞれが手渡すべき何かを、次の誰かに手渡すことになるだろう。こうやって目に見えない形で、我々は世の中の事象とつながっていく」

震災から7年。当時の記憶の風化も言われるようになっていますが、本書はこれからも末永く「たすき」として手渡されて、つながっていく一冊となって欲しいと、心より願っております。
ちなみに、2014年に刊行されたハードカバー版にも、そして昨年刊行された文庫版にも、日本製紙石巻工場産の紙が使われております。ぜひとも、その紙の風合いと感触を味わいながら、じっくりとお読みいただけたら、と思います。

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『ひとりで えほん かいました』子どもたちが素敵な本と本屋さんに巡り会えますように・・・

2017年12月24日

こんにちは。スタッフ押川であります。

お誕生日に、手作りの「ひとりで おかいもの けん」をプレゼントしてもらったかおりちゃんは、それを持ってはじめて一人で絵本を買おうと本屋さんに行きます。
店内で迷子になっていた近所の男の子を助け、その子のお母さんを見つけ出したかおりちゃんでしたが、急におしっこがしたくなったり、今度は自分が迷子になってしまったり。かおりちゃんは無事に、お気に入りの絵本を見つけ出して買うことができるのでしょうか・・・?
本書『ひとりで えほん かいました』(くすのき しげのり作、ゆーち みえこ絵、アリス館)は、一人ではじめて絵本を買おうとする女の子と、それをとりまく人たちを描いた絵本です。

おしっこがしたくなった主人公に気づき、トイレに連れて行ってくれる女子高生。どの絵本にしようかと迷う主人公をサポートしてくれる店員さん・・・。本屋さんの空間とそこに集う人びとは、一人ではじめて買い物にやってきた女の子を優しく包み込んでくれます。ゆーち みえこさんによる温かみのあるタッチの絵は、そんな本屋さんの店内風景を魅力的に描いています。
主人公が本屋さんに並んだ本を見ながら、恐竜の背に乗ってお散歩することなどを夢想する場面も、なんだかいいなあと思いました。いろいろな本が並ぶ本屋さんの店内は、想像力を掻き立てる空間でもあるということを、あらためて思い起こさせてくれました。
そうそう、本屋さんの店内を描いた場面では、ちょっと嬉しくなるような趣向も盛り込まれていますので、ご覧になるときにはどうか細部まで、しっかりとご覧いただけたら、と思います。

作者であるくすのき しげのりさんは、巻末の「作者のことば」で、次のように記しておられます。

「私は、子どもが本を読むということに、限りない希望を感じます。
そして、本が好きな子に育ってほしいと願います。
なによりも、私の中に、『町の本屋さん』への安心感と信頼感があるからです」

ネット書店の成長や、出版・書店業界の制度疲労など、さまざまな要因が絡み合う中で、いわゆる「町の本屋さん」が急速にその数を減らしている昨今。本書における本屋さんの描き方には、いくぶん理想化されたところもあるように感じられます。
でも、想像力と創造力、そして夢を育む場所であり、地域の人びとが集い、交流できる場所でもある町の本屋さんの空間は、一人でやってくる子どもが安心できるのはもちろん、大人にとっても居心地のいい、地域にとって大切な「サードプレイス」であることは確かなのではないかと、わたしは思います。

この絵本の主人公、かおりちゃんのように、子どもたちみんなが素敵な本と本屋さんに巡り会えることを、願ってやみません。

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来たる戌年を楽しいものにしてくれそうな一冊『ゆる犬図鑑』

2017年11月24日

こんにちは。スタッフ押川であります。

お得意さまから頂いたご注文によりその本のことを知り、それを自分も読みたくなってついつい買ってしまう・・・そういうことがわたしにはしばしばございます。『ゆる犬図鑑』(フェネラ・スミス&マクラウド兄弟著、梶山あゆみ訳、飛鳥新社)も、その一冊です。

誰もがよく知る犬種から知る人ぞ知る犬種、さらにはキツネなどの「野生の犬」まで、148種の犬たちをイラストと短文で紹介する一冊です。
独特のデフォルメによる線画で描かれた一種一種のイラストが実に愛嬌たっぷりで、見ていると顔がほころんでくるような気分になってきます。

たとえば、おなじみダックスフント。「この犬をドアの下に置くと、すきま風が絶妙に防げる」という文章に添えられたイラストには、ドアの前で腹ばいになっている、ちょっと困り顔したダックスの姿が。また、優美な長い毛が特徴であるアフガン・ハウンドは、頭にいっぱいカーラーを巻いた姿で描かれていたり、フランスではサーカスにも出演させていたというプードルは玉投げの曲芸をしている姿だったり。どちらかといえば犬よりも猫派、というわたしではありますが、本書で描かれる犬たちの愛らしい姿には和みまくりでした。
日本を代表する犬種である、秋田犬と柴犬も登場しています。正直なところ、この2種のイラストは似ているとは言いがたいのですが(笑)、それはそれで可愛らしくていい感じなのであります。

イラストに添えられた短い文章には、それぞれの犬種の持つ特徴が簡潔に記されるとともに、その特徴にひっかけた気の利いたジョークが織り込まれていて、これがまた読んでいてニンマリとさせられるのです。
古代エジプトの墓にも彫刻として描かれているファラオ・ハウンドの紹介文には、「象形文字がすらすら読める特技を活かして、忘れられた言葉を学校で教えている」とあり、イラストには指示棒片手に象形文字を教えているファラオ先生の姿が。また、フランス生まれでチョウを思わせるふさふさ耳がチャームポイントのパピヨンを紹介した文章には「晴れた日には、パピヨンがエッフェル塔のまわりを飛びまわっているのが見える」と書かれていたりします。それぞれの犬たちの個性や特徴がジョークによって一層引き立つ形になっていて、まことに上手いなあと感心しきりでした。
さらに、本書には犬の仲間ではないヤツも2種、紛れ込んでいたりします。そのうちの1つである猫のセリフもまた、実に愉快なのであります。

可愛らしくてニンマリ笑える絵本としても楽しめる本書ですが、いろいろな情報がしっかり盛り込まれているのもありがたいところです。
ドーベルマンはもともと、ドイツの税金徴収官が税金を滞納されないようにしたいと考えてつくりだした品種であったということや、ポメラニアンはかつては北極地方でソリを引いていた大型犬で、品種改良により今のような小型の愛玩犬になったということを、本書で初めて知ることができました。図鑑としてもなかなか、役に立つ一冊です。
なにより、犬にはこれほど多くの種類があって、それぞれが実に個性的で愛すべき存在なのだ、ということがよくわかったのは、大きな収穫でありました。

そうそう。ちょっと早いのですが、来たる2018年は戌年。犬好きの方はもちろん、わたしのような猫派の方も、特にどちら派でもないという方も、本書で楽しい戌年をお過ごしになってみてはいかがでしょうか。

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子ども以上にオトナがハマる?ふしぎ探究雑誌『月刊たくさんのふしぎ』

2017年11月17日

こんにちは。スタッフ押川であります。

『こどものとも』シリーズや『かがくのとも』など、福音館書店が発行している月刊絵本雑誌の中でも、とりわけ異彩を放つ存在といえそうなのが『月刊たくさんのふしぎ』でしょう。
「自然や環境、人間の生活・歴史・文化から、数学・哲学まで。あらゆるふしぎを小学生向きにお届けする科学雑誌」(版元サイトの紹介文より)という触れ込みの『たくさんのふしぎ』。小学生向きと謳ってはいるものの、しばしば「これは子ども以上にオトナのほうが面白く思えるんじゃね?」というようなテーマを扱ったりしていて、なかなか油断がならないのです。
今月発売された12月号「昭和十年の女の子 大阪のまちで」(牧野夏子・文、鴨居杏・絵)もまた、子ども以上にオトナが楽しめそうな内容の一冊であります。

大阪の小学4年の女の子・モモちゃんが、ひいおばあちゃんのスミ子さんから古いアルバムを見せてもらいます。モモちゃんと同じ10歳だった頃のスミ子さんとその家族を写した写真は、どれも白黒。でも、スミ子さんが語る昭和十年の大阪のまちには、華やかな色が溢れていたのです・・・。
本作「昭和十年の女の子」は、スミ子さんの思い出ばなしという形を借りながら、昭和初期に大阪で花開いていた華やかな戦前のモダン都市文化を、当時を物語る豊富な写真とともに再現していきます。

大阪で地下鉄が初めて開通したのが昭和8年。梅田と心斎橋を5分で結んだという「高速地下鉄」のことが、今も保存されている当時の車両や、絵はがきなどの写真で紹介されています。景品としてつくられたという紙製のメリーゴーラウンドは、地上の街と地下鉄、さらには空を飛ぶ飛行機が立体的に表現されていて、なかなか楽しそうです。
その地下鉄の駅から地下通路で繋がっていたのが、心斎橋の大丸デパート。大丸が出していたおもちゃの新聞広告や、年末年始用の品物や催し物を列挙した商品カタログからは、生活を楽しむことを覚えはじめたのであろう、当時の人びとのウキウキ感が伝わってくるかのようです。

昭和初期の子どもたちを楽しませた娯楽の筆頭だったのが、映画。本作には、当時人気子役だったシャーリー・テンプルの主演作や、「ポパイ」や「ベティ・ブープ」といったアニメ映画(いや、ここはやはり「漫画映画」と呼んでおきましょう)、さらには特撮怪獣映画の古典『キング・コング』といった作品の広告が載せられています。
雑誌文化も花盛りでした。女の子向けの『少女の友』に付いていた、ケース入り栞セットや花のカードゲームは、カラー印刷がまことに美しくて惹かれるものがありました。また、小学館の学習雑誌『小学◯年生』も、すでにこの時代には出ておりました。

そして、子どもたちの舌を満足させていたお菓子の数々。そこには、「明治ミルクチョコレート」や「グリコ」「森永ミルクキャラメル」、そして鹿児島生まれの「ボンタンアメ」といった、現在でもおなじみのお菓子がいろいろと見受けられて、その息の長さにしみじみ感慨を覚えます。
豊富に織り込まれた資料写真の数々もさることながら、鴨居杏さんによる淡い色彩の絵もまた、昭和初期の雰囲気に良く合っていていい感じでありました。

モダン都市文化といえば、東京の銀座あたりがすぐに思い浮かぶのですが、大阪にも実に豊かで華やかな都市文化がしっかりと存在していたということを、本作で知ることができました。
それから数年後には戦争の時代となり、華やかなモダン都市文化も「ぜいたくは敵だ」や「欲しがりません勝つまでは」といったスローガンとともに影を潜め、途切れてしまうこととなります。そう考えると、豊かで華やかな都市文化を楽しむことができる、平和な時代のありがたさも、本作を読んで感じることができました。

子どものみならず、オトナの好奇心もそそってくれる『月刊たくさんのふしぎ』。まだ読んだことがないという皆さま、ぜひ一度、お手にとってみてくださいませ。

Posted from スタッフ押川

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